現在、学校に行かない選択をしている小学5年生の琥博くんのお母さんである、琴子さんに、インタビューしてお伺いしたお話を、連載でお届けします。


Vol.1 現在5年生。学校に行かない選択をした琥博くんの幼少期


Vol.2 2歳で保育園に。慣らし保育、ギャン泣きのママ離れ


Vol.3 小学1年生。スイミング、学童、行きたくない!


Vol.4  学校に行きたくない。チック症状でメンタルクリニックへ


Vol.5 どうしたら学校へ行けるかという思いがあった頃


Vol.6 母の意識を変えていった、子どもの言葉や体からの訴え


Vol.7 学校に行かなくなった後の運動会


Vol.8 「生きている意味がない」「死にたい」と言わせた心の傷


Vol.9 外の世界に引っ張りだすことも必要?


Vol. 10「なんで仕事行くの!?休んで、お母さん家にいて」息子の必死の訴えに母は…


Vol. 11 回復の過程で向き合ったこと。トラウマケア、昼夜逆転


Vol.12  夫婦の話し合い。家族みんなで幸せになりたい気持ちを伝えることを諦めたくなかった


Vol.13  学校との関わりについて書いた手紙


Vol.14  笑い、自由、リラックス…そのままの自分で楽しむ姿


Vol.15  私もHSCだった


Vol.16(最終回)  ホームスクールは自然な結果。自分で選んで生きていく

この連載について

「HSC親子の安心基地」がスタートして1年以上が経った現在、約40名のメンバーさんとともに活動しています。

HSCで、行き渋りや不登校のあるお子さんとの今を、どのように過ごすのか。試行錯誤の日々を共有することが多いコミュニティ。その中で今回、一人のメンバーさんにインタビューをさせていただきました。

琴子さん(仮名)との出会いは、2018年11月。

当時小学3年生で、学校に行かなくなっていた息子さん(琥博⦅こはく⦆くん:仮名)が、HSCの特徴にぴったり当てはまっていたことから、「HSC子育てラボ」オンライン勉強会にご参加くださったことがきっかけでした。

その後、HSCを育てる親のオンラインコミュニティ構築のためのメンバー募集をしたところ、迷いに迷って思い切って参加を決めたとのことで、コミュニティ構築の仲間になってくださったのでした。

約1年半の間に、勉強会、お話会、親子で、子ども同士で、と、オンラインだけのつながりながら、深く濃い関係を築いています。

そんな琴子さん親子のエピソードを連載させてほしいと思った背景には、

「常識の枠にとらわれず、子どもの気質や意思を尊重した生き方の選択(ここではホームスクール)」「愛着関係の傷と向き合い、回復させる関わり」「本物の愛着形成がもたらす結果」といったことを、共通のものとして認識し、大切にしようと決意されるまでのストーリーがあったからです。

HSCを持つ親御さんからの、子育て、行き渋り、不登校などの相談といった関わりの中からわかっていったことなのですが、家庭の事情や、学校という制度の存在によって、それらの親御さんの多くが、家以外の環境に、子どもを早いうちから適応させておきたい、慣れさせておきたいという思いに駆り立てられたり、幼い頃から子どもを保育園や人に預けたりしてこられました。

早く集団に慣れさせたほうが良いという周りの流れや声もプレッシャーになっていたりします。

がしかし、愛着が形成され、かつ母子分離不安が高まっている3歳頃までのデリケートな時期に、親から引き離されるという体験をしたHSCでは、愛着関係に傷が残り、それが強い不安となって尾を引きやすいのです。

そして、愛着関係の傷の修復がなされないまま、すなわち、愛着の土台が不安定となってストレス耐性が下がったまま、登園・登校の時期がきて、行きたくないところへ行かされる、やりたくないことをやらされるなどの体験が続くことによって、人や環境に対する安心感、そして自尊心や自己肯定感が脅かされていきます。

脅かす環境や関係性から離れたり、あるいは、殻に閉じこもったりすることで自分を守ろうとするため、登園・登校渋りが出ても何ら不思議ではないのです。

このような経緯から、登園・登校を渋るHSCでは、かなりの頻度で、『分離不安障害』が起こっているものと考えられます。

『分離不安障害』の診断基準の中で、HSCに多く該当するものとしては、次の項目です。

〈『小児期の分離不安障害』の診断基準:ICD(国際疾病分類)-10より抜粋〉

・分離の恐れのために、(学校での出来事を恐れるというような他の理由からでなく)登校を嫌がり、あるいは拒否し続けること。

・強く愛着をもっている人が近くか隣にいなければ、眠るのを嫌がり、あるいは拒否し続けること。

・1人で家にいること、あるいは強く愛着をもっている人なしで家にいることへの持続的で度の過ぎた恐れ。

・分離に関する悪夢を繰り返す。

・身体症状(悪心、胃痛、頭痛、嘔吐などの)が、強く愛着をもっている人からの分離をともなう状況の際に繰り返し起こること。例えば家を離れて学校に行く場合。

・強く愛着をもっている人からの分離を予想した時、その最中、あるいはその直後に、過度の悲嘆を繰り返すこと(不安、泣くこと、癇癪、みじめさ、無感情、あるいは社会的引きこもりとして現れる)。

 

子どもが不適応を起こしたら、例えば、その子が持つ遺伝的気質に焦点を合わせて、学校などの環境を、できるだけその子の気質に合ったものに整えてもらえるように働きかけたり、学校以外で、その子の気質に合うような教育の場を選択したりすることを試みられることもあるかもしれません。

しかし、愛着の問題が絡んでいる場合、まずはそこに焦点を合わせることが重要なのです。愛着に手が施されなければ、その子が身を置こうとする環境に適応しにくくなるだけでなく、将来にわたって、対人関係面での生きづらさを抱えていくことにもなり得ることを知ってもらいたいのです。

 

「HSC親子の安心基地」は、HSCを育てる親にとっての安全・安心な場であるとともに、学校に行かない選択をしている子どもさんの今と将来に、たしかな安心や信頼が持てること、心身が健やかに育つことを、常に念頭に置いています。

実は、それには、恐れや欲望を手放す勇気、親にとって都合の悪いことでも、子どもの声や感覚に心を傾け、受け入れて対処する覚悟が必要です。

「HSC親子の安心基地」アクティブ会員の勉強会では特に、そのような親の在り方や、親自身の人生・内面との向き合いに取り組んできました。

琴子さんだけではありません。園や学校に行けなくなった子の親御さんたちが、子どもさんの訴えや苦しみに、どう向き合い、葛藤し、周囲の働きかけや声に傷つき、悩み苦しみ、子どもさんから何を感じ、考え、覚悟し、手放し、選んできたのか…

光を当てて見てほしいことがたくさんあります。

まずは、琴子さんのエピソードを連載させていただくことで、それらを表現できればと思います。

斎藤  暁子(kokokaku)/(愛着に関する補足説明:斎藤 裕医師)