〉Vol. 11 回復の過程で向き合ったこと。トラウマケア、昼夜逆転
「不登校は、本人の心の叫びを表した結果。小さい頃からずっと疑問を抱き、納得いかないことをさせられてきた結果だと思うので、早く気づかされてよかったと思います」と語る琴子さん。そこにはいったいどんなドラマがあったのか。琥博くんとのこれまでと、これからについて、乳児期からたどってお伺いしたお話を、連載でお届けします。
回復の過程
4年生になりました。
仕事を辞めた琴子さんは、
「今からは琥博と、色んなこと、今しかできないことをしたい!」
と心に思いました。
しかし現実は、外に出られなかったり、家にこもりがちな日々。
4月、琥博くんが強く望んだゲーミングパソコンを思い切って購入しましたが、うまくいかず激怒することもありました。
琴子さん自身もストレスが溜まるだけでなく、琥博くんの感情の起伏を目の当たりにして、自分を支えるのが大変でした。
アンガーマネジメントの講座を受けてみたり、気持ちの持っていき方を制御したりするのに一生懸命。
そんな中でも、勉強会で聞いていたことを思い出し、
「激しい感情の起伏は、回復の過程で通る、大事な吐き出し・膿み出し」
と捉えること、
「トラウマケアと愛着形成のための大事なとき」
と覚悟できたことで、徐々に対応に慣れていきました。
※当時の勉強会では、下記の議事録にあるような内容が、繰り返し伝えられていました。
先生や学校との関わり
4年生の担任の先生は男性で、新学期初日に、琴子さんが面談で、HSCのことを伝えコピーも渡していました。そして琥博くんのペースに寄り添った対応について、お願いもしていました。
4月の夕方、琥博くんが、画用紙に描いた海の生き物の絵を先生に見せると言いました。
そのまま持参して、担任の先生と対面し、教室で終始、琥博くんのペースで先生と話しをしていました。
その他、学校との関わりは、時々電話で様子を伝える程度でした。
何よりも親子の結びつきを必要としていた
5月頃から地域の親の会から発足した親子の集まりも、気の合う友達ができて、そこに行くのを楽しみにするなど、少し気持ちが外に向いてきたのかなと思っていましたが、夏くらいからは行かなくなりました。
虫取りに行ったりもしていましたが、気持ちに波があったり。
また、一人になることも、とても嫌がるようになっていました。
琴子さんが買い物に行こうとすると、
「なんで行くの、一人にしないで」
と訴えました。
この頃の琥博くんは、家で過ごすこと、家が安心基地になること、そして琴子さんとの愛着形成のためのつながりを、本当に必要としていたのでした。
蘇る記憶と感情
5月後半。
寝る時間になり、布団に入って琥博くんが話しを始めました。
何のことから繋がったのか、先生に対しての怒りが湧いてきて、乱暴な言葉が出てきたのでした。
琴子さんが、前に怒られたことかどうかを確認すると、そうだとのこと。
「そんなに悔しかったんやね」
となだめ、琥博くんは眠りにつきました。
琴子さんは、急に怒りが湧いてきたきっかけについて考えました。
先日と昨日の夕方と、担任の先生から、その週の土曜日に行われる運動会についての電話があったこと。
そのことで「運動会だけど、去年みたいにチラッと見に行く?どうする?」と聞いてみたけど返事がなかったことが浮かびました。
寝る前に聞いたわけではなかったけど、このことから、琥博くんの学校に対するトラウマのようなものが想起され、さらに教頭先生に怒られたことを思い出させたのかなと、琴子さんは想像しました。
そして、
「まだその時のことが鮮明に記憶にあるんだな、保育園の時に怒られたこともハッキリと憶えていて怒りが湧いてくることもある。
自分も同じようなことがあるから、一生残るものなのかな……
琥博くんは学校に行けなくなってから「学校自体がムリ」って言ってた。
やっぱり学校と少しでも関わることさえ辞めてしまった方がいいのかな。
トラウマから少しは解放されるかな……」
などと考えました。
翌朝、再度運動会のことを聞いてみたら「お弁当は食べたい」とのこと。
そこで琴子さんは、「じゃあ家族でキャンプ場の川に行ってお弁当食べようか?」と提案しました。
昼夜逆転
普段は夜10時から11時頃には寝室に行き、眠りについていました。
6月7日のこと。夜11時頃布団に入っても、琥博くんは眠たくない様子。
琴子さんが寝ることを促すと「お母さんは子どもと意思疎通ができないの?」と言って泣きました。
琴子さんは、琥博くんは眠たくないのに、自分のペースに当てはめようとしていたのだ、ということに気づきました。
そして、「じゃあ遊ぼう」とリビングへ戻り、親子3人でトランプをして過ごしたのでした。
この頃から、昼夜逆転気味になり出し、琴子さんと琥博くんは、リビングで寝るようになりました。
夜中もテレビでYouTubeを見て笑ったり歌ったり踊ったり、思うようにならないと怒ったりするときもありました。
寝る時間は徐々にズレて、昼過ぎに寝て夜中に起きるなど、サイクルが変化しましたが、コントロールはしませんでした。
また琴子さんは、「自己肯定感」を第一に考え、子どもの受容感を確保するために、能動的な聞き方や、言葉かけの工夫、道徳の代理人をやめ正直に気持ちを伝えることなども心掛けました。
「まだ自己否定感のある琥博。安心できる家族を目指して、自己肯定感を育んで行こう」
と、この頃の琴子さんは、思いを胸に刻んだのでした。
つづく