〉Vol.9 外の世界に引っ張り出すことも必要?(この記事です)
「不登校は、本人の心の叫びを表した結果。小さい頃からずっと疑問を抱き、納得いかないことをさせられてきた結果だと思うので、早く気づかされてよかったと思います」と語る琴子さん。そこにはいったいどんなドラマがあったのか。琥博くんとのこれまでと、これからについて、乳児期からたどってお伺いしたお話を、連載でお届けします。
前回(Vol.8)、琥博くんは、教頭先生の言葉に表情が苛立ったように変わり、それが引き金となって「生きてる意味がない」「死にたい」と泣きました。
干渉
当時、教頭先生は月に一、二度顔を見に来てくれて、自然や生き物好きな琥博くんが川で魚取りをしてるところにも来て『学校の水槽に入れにいこう』と、学校に誘ってくださるという関わりをしていました。
12月に担任の先生と面談の後、教頭先生に挨拶をしたときのこと。
教頭先生は、家にこもりがちな琥博くんについて、
「 少し外の世界に引っ張り出していずれ親から離れて自分で道を進んでいかないといけないんだよ」
「勉強から逃げてるのが心配、掛け算の基礎九九だけは、あと漢字も少しづつでいいから」
と言いました。
そのときだけではありませんでした。
琥博くんに付き添って休み時間に学校へ行っていたおばあちゃんにも同じように、
「勉強の基礎だけでもやっていた方がいい」
「お父さんはどのように言ってますか?」と伝えてこられていたそうです。
夏休み前、自分の気持ちを伝えたにも関わらず繰り返された指導
これは、夏休み前も同じ様に言われたことでした。
そのとき琴子さんは、
「勉強は本人がやる気になればできます、今は傷ついた気持ちに寄り添って、無くなった自信を取り戻すことが大事…」と、ご自身の気持ちを話したのでした。
「琥博くんが苦しむ姿を目の当たりにしているからこそ大事にしたい」
そう思う内容を伝えたにも関わらず、繰り返された指導は、とても不快に感じられました。
分かり合える気がしない……
琴子さんは精一杯、「決められた枠にはめられる学校というものではなく、他に居場所があればいいのですが」と言いました。
校長先生との関わりはほとんどなかったものの、玄関の外で、教頭先生と琴子さんが、琥博くんの近況を話していた横で、校長先生は話しを聞きながらゴルフの素振りをしていました。
このようなことがあり、肝心なところで「分かり合える気がしない」と感じていた琴子さんは、琥博くんの心の傷となった出来事について探ることはしませんでした。
心の傷となった出来事
しかし、それから少しして教頭先生と話す機会がありました。
そこで琴子さんは、
「前回学校から帰ったあと気分が荒れていて、『もう学校に行かない』って言ってたんですよ」
と、琥博くんの様子について話しました。
すると教頭先生からは、
「あぁ、自分が怒ったからです」
という言葉。
教頭先生は理由がわかっているようでした。
怒った?
どうして?
教頭先生は琥博くんにいったい何を言ったのか?
琥博くんはどんな気持ちだったのか?
一瞬、いろんなことが頭を駆け巡ったかもしれません。
しかし琴子さんは、琥博くんの心の傷となった出来事と、教頭先生に抱いた不信のような感覚に直面し、ショックと怒りが湧き、それ以上理由は聞けませんでした。
夏に知った『HSC』のことや、学校に行かなくなってからの琥博くんの様子、
「自分のことが嫌い」「ストレスが溜まって生きるのがイヤ」といった言葉、
「生きている意味がない」「死にたい」と言って泣いた姿などから、琥博くんの気質や気持ち、つらさがわかればわかるほど、
教頭先生や、学校という場所との間にできてしまった溝が、埋まりそうにないことを感じたのでした。
つづく
《干渉しない》
・指示や口出しをせずに、見守る。
・パターナリズム的な干渉に注意する。
《無理強いをしない》
・急かさない。圧力を加えない。
・叱らない。HSCは話して聞かせるだけで十分である。
《その子のやり方やペースを尊重する》
・ほかの子に合わせたり、ほかの子ができているからということを基準にするのではなく、その子が好むものを「選ぶ」、その子がやり出すまで「待つ」という姿勢を意識する。
『HSCを守りたい』P.43 「HSCと接する時の10のポイント」より抜粋