【お詫びと訂正】
いつもお読みくださりありがとうございます。
投稿時、第7話と第8話の順序に誤りがありました。
こちらの記事を第7話、前日投稿分を第8話(こちら)へと訂正させていただくとともに深くお詫び申し上げます。
〉Vol. 7 学校に行かなくなった後の運動会(この記事です)
「不登校は、本人の心の叫びを表した結果。小さい頃からずっと疑問を抱き、納得いかないことをさせられてきた結果だと思うので、早く気づかされてよかったと思います」と語る琴子さん。そこにはいったいどんなドラマがあったのか。琥博くんとのこれまでと、これからについて、乳児期からたどってお伺いしたお話を、連載でお届けします。
学校とは何らかの関りを持っておいた方がいいと思って
2年生の3学期から、本格的に学校に行かなくなり、迎えた3年生の5月。
学校とは何らかの関わりを持っていた方がいいのではないかと、当時の琴子さんは思っていました。
その背景には、「そのうち学校に行けるようになるのでは」という期待や、「行ってほしい」「周りの人と同じことができてほしい」という思いがありました。
そのときはまだ、HSCを知らなかったこと、仕事を辞めるわけにはいかないと思っていたこと、そして、学校に行かない選択自体が琴子さんのイメージに存在しなかったことも理由にありました。
「他の子が下校した後の夕方だったらどうかな」と考えた琴子さん。
琥博くんが、画用紙に海の中の生き物の絵を描いていたのを見て、「先生たちに見せにいかない?」と提案しました。
琥博くんは「うん!」と乗り気で、それを持って学校へ行きました。
放課後の職員室にはけっこうな先生がいて、歓迎してくれました。
そして、次々に琥博くんの絵を見て、褒めたり、質問したりしてくれました。
自分の話をみんなが聞いてくれる。説明するのが嬉しい。
琥博くんはとても嬉しそうで満たされた様子でした。
読まずに閉じた運動会お誘いの手紙
運動会の2週間前、担任の先生から電話があり、
「お揃いの法被(はっぴ)を着るので、揃えないといけないが、琥博くんはどうしますか?学校にきたときに、本人に聞いた方がいいですか」
ということで、先生から聞いてもらうことになりました。
その頃、ちょこちょこと教頭先生と一緒に、学校に行く日もあったのです。
琥博くんには会話が聴こえていたようで、電話が終わり、リビングに戻ると「学校は行かないよ」と言いました。
しかし、結局学校には行きました。
そこにはこのようないきさつがありました。
先生から電話があった次の日の夜
琴子さん「最近学校行ってないよね」
琥博くん「うん、行きたいのよ」
琴子さん「じゃあ明日の夕方、行こうか」
琥博くん「イヤ、朝お母さんが仕事に行くときがいい」
翌朝9事頃
琴子さん「今日夕方、行こうか」
琥博くん「いや早く行く」
琴子さん「じゃあ先生がこなかったら、昼1時にばあばあに連れて行ってもらおうね」
そう言って琴子さんは仕事へ。
その後、午前中に2年生のときの担任の先生(当時1~2年生の補助担当をされていた)が迎えにきてくれました。
琥博くんは、喜んで行きました。
おばあちゃんが12時に学校近くに迎えにいくと、先生と一緒に帰ってきていました。
学校にいたのは1時間くらいです。
おばあちゃんが「教室行ったの?」と聞くと、琥博くんは、
「いや、職員室。もう学校イヤ」と言いました。
このように、学校にはちょこちょこ行くけれど、帰ってくると「もう学校行かない」と言うことが繰り返されました。
先生から聞かれた法被(はっぴ)のことも、断ったとのことでした。
また、別の日には、運動会の練習に参加するか声をかけたけれど、「イヤ」との返事だったことも先生から報告を受けました。
そして、運動会の2日前。
金曜日の夕方に、先生が、みんなからのお手紙とプログラムを持ってきてくれました。
琥博くんは、先生には「運動会は観に行く」と言いました。
手紙とプログラムについては、「字がわからない」と言ってすぐに閉じました。
琴子さんは、「待ってるね」「踊りをみてね」など、ひとつひとつのメッセージを見て、正直に嬉しいと思いました。
しかし同時に、このための時間をつくって、促されてやってくれたのかな……と情景が浮かびます。
嬉しい反面、切ないという、複雑な気持ちでした。
お弁当が楽しみだった運動会前日
明日に控えた運動会は、見学に行く予定。
琥博くんは「お弁当を持って行く」ということを楽しみにしていました。
琴子さんと琥博くんが、お弁当の材料を買いにスーパーへ行くと、そこには同級生の親子が2組いて、声をかけられました。
子どもたち3人でずっと遊んでいて楽しそうにしていました。
それもあって翌日の楽しみにつながったのかな、と琴子さんは振り返ります。
運動会当日
運動会当日。
朝からお弁当をつくります。
琴子さんは、「もし、みんなと一緒の場所にいたい、私服だと目立つからイヤ、みんなと一緒の体操服を着ると言ったら……」と考えて、体操服もこっそり持参していきました。
見学に行ったのは途中から。すでに競技が始まっていました。
家族3人で一緒に行き、応援席へ。
同じクラスの子、担任の先生がいて、最初は「琥博くん~」と歓迎モード。
でも、すぐに競技が始まり、みんなは一斉に、一生懸命応援モードに切り替わりました。
その場に居続けることはできずに、運動場の周りの虫などを、お父さんと一緒に見ていました。
私服を着て琥博くんが家族でいる様子を見て、「ん?」という表情を浮かべる人や、話しかけてくる人も。
琴子さんは、聞かれるたびに「学校行ってないのよ。見にきたいというので来たんだよ」と伝えました。
また、琥博くんと同じ、すごく虫が好きな同級生のお母さんにも声をかけられると、琥博くんは、虫や魚の話をし始め、盛り上がったりもしました。
そうやって運動場を移動しながら過ごしていましたが……
「運動会にいたいという気持ちはないんだな」
「ここにいる意味があるのかな」
そういう気持ちになったのは、お父さんも同じだったようでした。
お父さんは「もう帰ろうか。じいじい誘って釣りでも行こうか」と言いました。
琥博くんは「うん!行こう!」と喜びました。
運動場にいたのは1時間くらいでした。
そして琴子さんの実家へ行き、みんなでお弁当を食べて釣りに行ったのでした。
周りとの違いにこだわっていたのは、私だけだったのかもしれない
琴子さんは、「他の保護者や、地元なので知っている人もたくさんいて、『何か聞かれるとイヤだな』『声をかけられなくても、参加してない子どもを連れているところを見られるのはイヤだな』など、人目を気にしていた」と振り返ります。
一方で、琥博くんはそういうことは関係ない様子で、みんなに見られるのがイヤとかそういうのがない、といった雰囲気でした。
体操服だって、こっそり持参した琴子さんでしたが、琥博くん本人は、制服も体操服も嫌い。「着る」なんて言いだすことはありませんでした。
「周りとの違いにこだわっていたのは、私だけだったのかもしれない……」
琴子さんは思ったのでした。
つづく