HSC(Highly Sensitive Child)は、その気質の特性から、学校などの環境で苦痛に感じられることが多く、人知れず心に傷を負ったまま過ごしていることがあります。HSCが「学校に行けない」「学校に行きたくない」と言ったり示したりする時、その心の中はどのような状態なのかを知って、対処できると安心です。

HSCにとっての不登校

HSCにとっての、「学校に行けないこと」「学校に行きたくないこと」

HSCにとっての、「学校に行けないこと」「学校に行きたくないこと」というのは、

①気質に合わないことによる拒否反応である、

②本来の気質が活かされないまま、本当はやりたくないことをやらされることが多く、自分のペースで「自発的」に「主体性」をもって自分らしく生きることができなくなるなどの結果である、

と考えることが大切です。

一方で、HSCが幼稚園や学校などの環境になじめず、不適応を起こす時、気質の面だけに留まらず、「愛着関係の傷」が関係していることが少なくありません。

「愛着関係の傷」はどうしてできる?

では、「愛着関係の傷」とは、どのようなことがもととなってできるものなのでしょうか。

「愛着関係の傷」になり得ることとしては、

①子どもが幼い頃(3歳頃まで)に、「保育園に預けられる」「人に預けられる」など、親から引き離されること

②条件つきのコントロールを受けること(いわゆる『条件つきの愛』『条件つきの承認』のこと)

③下に弟または妹ができること

④否定的で、不平等に育てられること 

⑤親の情緒が不安定で、気分にムラがある。機嫌が良い時は可愛がり、そうでない時は、拒否したり、無視したり、関心や反応を示さなかったりすること

⑥親が子どもを干渉したり、親の価値観・理想・期待を子どもに押しつけたりして、子どもの主体性を奪うこと

⑦両親の仲が悪くなること

⑧両親の離婚

など(詳しくは『HSCを守りたい』のp52~54をご参照下さい)が挙げられます。

不適応にはなぜ「愛着関係の傷」が関係していることがあるの?

では次に、「不適応を起こす時、気質の面だけに留まらず、『愛着関係の傷』が関係していることが少なくない」ということについて説明します。

子どもによっては、上記のいずれかが原因となって、“見捨てられることに対する不安”を抱えたり、“人との関わりを避ける生き方”となったりする可能性があります。

そしてこの、「愛着関係の傷」の修復がなされないまま、すなわち、愛着の土台が不安定となってストレス耐性が下がったまま、登園・登校の時期がきて、行きたくないところへ行かされる、やりたくないことをやらされるなどの体験が続くことによって、人や環境に対する安心感、自尊心や自己肯定感が脅かされていくことがあるのです。

脅かす環境や関係性から離れたり、あるいは、殻に閉じこもったりすることで自分を守ろうとするため、登園・登校渋りが出ても何ら不思議ではないのです。

学校に行けなくなった子どもの心と体では、どのようなことが起こっているのでしょう?

HSCでは、「愛着関係の傷」のほかにも様々な「トラウマ」が関係していることがあります。

特にHSCは、外向性(社交性)を重要視する学校という環境やその人間関係の中で、気質に合わないことによる多くのストレスと、その中で抱えざるを得なかった「自己否定感」「劣等感」「挫折感」「屈辱感」、また、「学校に行きたくないと言ったこと」「学校に行けなくなったこと」で親に迷惑をかけてしまったという「罪悪感」などによって、身も心も疲弊してしまっていることが多いのです。

繊細で傷つきやすいHSCにとっては、虐待的な体験などの深刻なものだけでなく、小さな出来事でも「トラウマ」となって残っていることが多いようです。

その時に湧き上がった怒りや悔しさ、あるいは恐怖や悲しみなどのネガティブな感情は、外に吐き出したり誰かに受け止めてもらったりすることなく、解消されずに、心の奥底に押し込められています。つまり、トラウマとは、消化されていない過去の記憶とも言えます。

それは、からかい・仲間外れ・無視などのいじめを受けたことによるものかもしれません。

また、学校で先生に当てられて答えられなかったとか、みんなの前で恥をかいたという体験が「トラウマ」となっているのかもしれません。

「愛着関係の傷」になり得ることの①でお伝えしたように、もっと早い段階から、園(保育園・幼稚園)などに行きたくないと泣き叫んでいたり、訴えていたりしたことが何度となくあったのにもかかわらず、「無理やり行かされた」、さらに、「やりたくないことをやらされた」ことで、自分の安全(生存本能)や自尊心が脅かされ続け、それが強い不安となって尾を引いているのかもしれません。

自分を守るための不登校

不登校をもたらす理由として、繰り返しになりますが、そのような、自分の安全や自尊心を脅かす環境や関係性から離れたり、あるいは、殻に閉じこもったりすることで自分を守ろうとしていることとして見ていくと、より理解しやすいのではないでしょうか。

 

敏感な子は心の傷を抱えると、過剰に敏感(過敏)になって、さらに傷つきやすくなります。

敏感性が高いほど、その傾向が強く出ます。

つまり、一旦トラウマを抱えると、ささいなことにも過剰に反応するようになり、ストレスに対する抵抗力(ストレス耐性)が下がってしまいます。その結果、さらに傷つきやすくなって、トラウマを重ねていくという悪循環にはまってしまうのです。

そして、ストレスから逃れるために、*〝解離〟という防衛機制を無意識のうちに身につけていくことがあるのです。

*解離…耐えきれないほどのストレスを受け、物理的に逃げ出すことができない時、意識が変容したり記憶が飛んだりすること。「ボーッとしている」「授業に参加してはいるけれど成績がかんばしくない」「忘れ物が増える」などで表れることが多い。

表に出ていない心の傷の存在

学校に行けなくなった子どもは、学校から離れて過ごすことで直接的なストレスから解放されます。

しかし、次第に落ち着いていき、以前のような笑顔も時折見られて、問題なく過ごしているかのようにも見受けられる場合でも、表に出ていない学校で負った心の傷が、思いのほか深くなっていることが往々にしてあります。

 心の傷を修復するためには、その過程で、つらい出来事にあったり体験をした際に湧き上がった怒りや悔しさ、恐怖、悲しみなどのネガティブな感情を、「怒鳴る」「わめく」「思いっきり泣く」といった方法で外に吐き出し解消することが必要になります。

それによって、その時の出来事や体験が過去のものとなり、「時間とともに忘れていく」ことができるのです。

しかし、それらのネガティブな感情に対して、自ら外に吐き出す、誰かに受け止めてもらうなどの処置が施されなければ、解消することができずに心の奥底に押し込められ、心の中にトラウマを残してしまうのです。

 

トラウマを抱えた子どもは、再び嫌な思いをするのではないか、傷つくのではないか、恥をかくのではないか、何か失敗をするのではないか、などということに敏感になっています。そのような状態で、学校に行くことを試みても、子どもは行かなければいけないと思うほど体が動かなくなってしまいます。

学校に関すること以外の面では元気になっているのですが、心の中はモヤモヤしていて、今までずっと抑え込んできたもので一杯なのです。

良い子として生きる習慣

親や大人の意向を敏感に感じ取るHSCの多くは、自分のことは後回しにして、親や大人の意向に沿うような行動を取ろうとするなど、ネガティブな感情を出さずに良い子として生きる習慣を身につけてしまっています。

トラウマを抱えたHSCの中には、学校に行けないことで親に迷惑をかけているのではないかという後ろめたさなどもあって、過度に良い子として振る舞うケースも少なくありません。

ただ、そうしたケースでは、思春期・青年期以降、対人関係におけるストレスや何らかの挫折をきっかけに、不安障害やうつ、摂食障害や依存症などの問題、そのほか結婚後の夫婦間や子育てに関わる問題が表面化してくることも少なくないのです。

 

子どもの心の中に今起きていることが表に出されないままであることが、その後のわが子の人生に大きく影響してくることなど、あまり知る機会がないのではないでしょうか。

HSCの概念も含め、もっと早くに知れたら良かったという、親御さんやHSCだったご本人の思いも何度も耳にしてきました。

子どもの将来が「大丈夫」と言えるものになるよう、子どもの心の中に今起きていることを、まずは親が認知することが重要なのです。

トラウマの後遺症

そのほかに、トラウマは子どもにどんな影響を与えるのでしょうか?

一般的によく聞くPTSD(心的外傷後ストレス障害)という、生命が脅かされるレベルの非日常的な出来事(自然災害など)によって生じる〝単回性のトラウマの後遺症〟に対し、『複雑性PTSD』という言葉があります。

これは、逃れることが難しかったり不可能だったりするような、長期間にわたる、または反復的な出来事(例えば、虐待やネグレクト、両親間のドメスティック・バイオレンス:DV、差別、いじめなど)にさらされたことによって生じる〝複雑性トラウマの後遺症〟のことです

2018年に公表された国際疾病分類(ICⅮ)の第11回改訂版において『複雑性PTSDが正式な診断基準として採択されました。『複雑性PTSDの症状の概要を、以下にコンパクトにまとめてみました。

ICD-11の診断基準では、

再体験」…トラウマに関する記憶が突然生々しくよみがえってきたり(フラッシュバック)、悪夢として繰り返し経験される。

回避」…トラウマに関する記憶を思い起こさせるような場所・人・状況・話題を避ける。

過覚醒」…警戒心が非常に強く、常に緊張していて、ささいなことに驚きやすい、などの過敏な状態にある。

という従来のPTSDの症状に、

「感情制御の困難さ」…気分変動(感情の爆発、イライラ、抑うつ)、自己破壊的な行動など。

「否定的な自己概念」…自分は価値が無い人間だという思い込みが存在する。

「対人関係の困難さ」…対人関係を維持し、他者に親密な感情を持つことが困難である。

の三者が加わっています。

これらの症状は、思春期以降に生じることが多く、大人になっても続き、社会生活を困難にすると言われています。

愛着関係における傷を含む「トラウマ体験」や「ストレス」によって身につきがちな習慣や傾向

トラウマによる影響は、複雑性PTSDとしての症状だけではありません。 

ここでは、育った環境や人間関係に適応していくために身につきがちな習慣や傾向で、過去の愛着関係の傷やトラウマ体験・ストレスと関連性のあるものを挙げてみました。

過去の愛着関係の傷やトラウマ体験・ストレスとは、虐待やいじめ、家族との死別、親の離婚や喧嘩などだけでなく、幼い頃に人に預けられたこと、誰か(特に親)から否定的な言葉を投げかけられたこと・無視されたこと・拒否されたこと・見放されたこと、その人の都合や期待や価値観を押しつけられたこと、「条件つきの愛」でコントロールされたこと、ほかの子と比較されたこと、自分よりもほかのきょうだいがひいきされたことなど多くのことを含みます。

中でも、本人の性格や問題として扱われがちで、過去の愛着関係の傷やトラウマ・ストレスとはつなげられにくい習慣や傾向として考えられるものには次のようなものがあります。

□人から認められたいという思いが強い。

□自分のことを周りの人がどう思っているのかとても気にする。

□自分のことより、周りの人のことばかり考えてそちらを優先してしまう。

□人前で良い子・良い人であることを無意識にアピールしてしまう。

□過剰に適応しようとしてしまう。

□人の顔色・目つき・視線に敏感で、自分が嫌われていないか不安になる。

□拒否されるのではないか、見捨てられるのではないかという不安がある。

□ 嫌われる、相手が離れていく、仲間外れにされることを恐れて、自分の正直な気持ちが言えない。

□怒りや悲しみなどの感情を表に出さない。

□自分の感情や本当の欲求がわからない。

□ネガティブ思考である。

□感情のコントロールができない時がある。

□傷ついているのに何ともないフリをする。

□人と関わる時に警戒心が働いている。

□人から言われたことを、いつまでも気にしてしまう。

□相手の反応に怯えてしまう。

□人を信じることができない。

□人と関わる時に過度に緊張してしまう。

□相手の考えや感じ方・価値観と違うことを選ぶことへの罪悪感がある。

□自分のことが嫌い。

□自信が持てない。

□何かあると自分のせいではないかと思う。

□完全主義傾向にある。

□自分の思いを通そうとする傾向やこだわりが強く、頑固である。

 

表に出ていない心の傷への対処のポイント

回復に欠かせない『安心の基地』

トラウマからの回復の鍵を握るのは、安心して過ごすことができる安全な場所(『安心の基地』)が確保されるかどうかです。

『安心の基地』とは、上下の関係や支配・押しつけ・拒否・無関心・無視・差別・暴力・喧嘩・口論などがなく、子どもの考えや感情が否定されずに共感的・肯定的に受け止められながら安心して過ごすことができる場所のこと。つまり子どもの安全が保障され、承認・共感・受容をもって関わられるという安心感と信頼感を備えている基地のことです。

特に、トラウマの後遺症を抱えた子どもにとって『安心の基地』は非常に重要で、そこは、子どもの自己肯定感と主体性が削がれるようなことがない場所であるとも言えます。

(詳しくは、『HSCを守りたい』のp102~104、子どもの自己肯定感と主体性を削がない『安心の基地』になるための「~しない」10項目~をご参照下さい

『安心の基地』にとって重要なこととしては、次のようなことが挙げられます。

①弱い立場に置かれている人、特に子どもなどの立場になって気持ちを汲む意識(相手の立場で考える意識)

②内省する力(振り返る力・自分を客観視する力)

③「待つ」「見守る」「受け止める」「譲る」「尊重する」などの寛容さ

④誠実さ

⑤謙虚さ

⑥温かさ

最後に、(愛着関係の傷を含む)トラウマからの回復に欠かせない3つのポイントをお伝えします。

ー愛着関係の傷を含むトラウマからの回復に欠かせない3つのポイントー

①家庭に『安心の基地』を構築すること。

 

② 子どもがずっと心に溜めてきた思いや感情を吐き出そうとする時、それらを受け止め、子どもの心の痛みに寄り添ってあげること。

愛着関係の傷を含むトラウマが、いつの、どの内容のものだったのか(複数存在することも十分あり得る。愛着関係の傷→『HSCを守りたい』p52~54参照)を内省し、親が真摯に詫びると、子どもがずっと心に溜めてきた思いや感情が解放されやすくなる。

〈トラウマに対するケア=心の中に浮遊している思いや感情をきちんと過去のものにしていく過程〉

 

③子どもの満たされていない心の飢え(空虚)を満たしていくこと。

不足してきた安心感や愛情、子どもらしい子ども時代を取り戻していくこと。→甘え直し(赤ちゃん返り・幼児返りが起こることも)。

できるだけ子どもの近くにいて、共感的に子どもの気持ちを汲み取り、子どもの反応や求めに応えようとする応答性豊かな関わりが、特に重要である。

そのような関わりの中から、『自分は親から愛されている、必要とされている』『親は自分のすべてを理解してくれている、必要な時に守ってくれる』というイメージ(そう信じることができる感覚)が子どもの心に内在化され、困った時に親に何でも話すことができる、相談できるという空気・雰囲気がつくられていく。→(基本的安心感・信頼感の内在化

〈愛着に対するケア=生きる力を取り戻す・生きる力を支える根幹に値する部分〉

 

執筆:斎藤 裕(精神科医)

 

〈参考文献〉出版年度順

ジュディス・L・ハーマン(1999)心的外傷と回復〈増補版〉.みすず書房.

大河原美以(2006)ちゃんと泣ける子に育てよう…親には子どもの感情を育てる義務がある.河出書房新社.

岡田尊司(2011)愛着障害…子ども時代を引きずる人々.光文社.

岡田尊司(2012)発達障害と呼ばないで.幻冬舎.

岡田尊司(2012)母という病.ポプラ社.

岡田尊司(2016)愛着障害の克服…「愛着アプローチ」で、人は変われる.光文社.

ベッセル・ヴァン・デア・コーク(2016)身体はトラウマを記録する…脳・心・体のつながりと回復のための手法.紀伊國屋書店.

岡田尊司(2017)過敏で傷つきやすい人たち…HSPの真実と克服への道.幻冬舎.

岡田尊司(2018)愛着アプローチ…医学モデルを超える新しい回復法.KADOKAWA.

杉山登志郎(2019)発達性トラウマ障害と複雑性PTSDの治療.誠信書房.

飛鳥井望(2019)複雑性PTSDの概念・診断・治療(複雑性PTSDの臨床 : “心的外傷 ~ トラウマ”の診断力と対応力を高めよう).精神療法.45(3), 323-328.金剛出版.

岡野憲一郎(2019)CPTSDについて考える(複雑性PTSDの臨床 : “心的外傷 ~ トラウマ”の診断力と対応力を高めよう).精神療法.45(3), 336-342.金剛出版.

中村伸一(2019)複雑性PTSDへの“複雑な”思い(複雑性PTSDの臨床 : “心的外傷 ~ トラウマ”の診断力と対応力を高めよう).精神療法.45(3), 380-381.金剛出版.

杉山登志郎/編(2019)発達性トラウマ障害のすべて(こころの科学増刊).日本評論社.

〈参考サイト〉

本田秀夫「子どものココロ」 | 医療・健康・介護のコラム | ヨミドクター(読売新聞)
「人をなかなか信用しない子」も「過剰になれなれしい子」も…親から虐待された子どもに表れがちな「愛着形成」の異常

 

 
 

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