夏休みが終わり、新学期となるこの時期は、子どもの自死がもっとも多くなるといったことが、ここ数年、不登校関連の報道や番組、記事を通して知られるようになりました。

学校がつらいと感じる子の心の中は、見た目よりずっと深刻だったりします。

そのつらさや不安は言葉にならないものが多いのです。

「行ける」と思っていたけれど、不安の方が強くなってやっぱり行けないに変わる子、中々言い出せず無理して頑張る子や、体調に表れる子がたくさんなのが2学期。

 

子どもが「学校に行けなくなった時」「学校に行きたくないと口にする時」の多くは、すでに限界を超えています。

また、親に迷惑かけたくない、心配させたくない、困らせたくない、期待に応えたい、という思いで、本音を言えずに我慢し続けて、本当は頑張りたいけどもう頑張れないという状況が多いです。

一方で、子を社会や学校に適応させることが親の務めといったような縛りに、親は追い詰められるのも実情です。

 

ですから、子どもが「学校に行きたくない」と言った時、今何を知って、何を選択して、どう過ごすことが必要なのか、といったことを早めに知ることが求められるのです。

そして、その情報は、子どもの気持ちに寄り添った判断ができるものであることが重要です。

 

拙著「HSCを守りたい」は、子どもが「学校に行きたくない」と言った時に、家族で共有していただきたい本です。

子どものつらさや、言葉にならない感覚・気持ちがどのようであるかが言語化されたところも、事例を含めて多くあります。

今回は、刊行から約2か月を迎える「HSCを守りたい」の具体的な内容に触れたいと思います。

「HSCを守りたい」(風鳴舎)

 

「HSCを守りたい」制作の目的

「HSCを守りたい」は、

学校に行かない選択の安心材料を集めて本にすることを目的として、

18人のHSCのお母さんたちと、専門家の方々の多大な協力を得て制作しました。

 

安心材料を集めて本にしたいと思った背景には次のようなものがあります。

背景

■「学校に行かなくていい」というのは簡単。でも「安心材料」が無ければ、圧力・不安・焦りにのみ込まれ、子どもの気持ちに寄り添えなくなる。その時子どもにとって必要なケアやサポートが持続しない。

■「学校がつらい」と感じて行けなくなる子の多くにHSCの気質があると捉え、その気質に合った対応や選択があることを示したい。

■気質に合った対応や選択によって子どもの心身が回復し、子どもが自分で、自分らしく生き生きと生きられる生き方を見つけることを応援できる環境を整えることが望まれる。それは、既存の常識や固定観念に縛られない、自由で柔軟なもの。心から納得できるもの。

■自分の選択に自信が持てるよう、肯定、応援してくれる大人が増えることが望まれる。

■「大丈夫!」と言ってあげられる環境を整えるための「安心材料」を、心理カウンセラー、HSCを育てる親、学校に行かない選択をしている子の親、それぞれの立場で提示する。

 

「HSCを守りたい」に掲載されている「安心材料」とは

「安心材料」としては、主に次のようなことが掲載されています。

・HSCの基礎知識

・不登校に関連するトラウマ、愛着の知識、愛着関係の傷、および回復に必要なこと

・専門家へのインタビュー(①東大大学院教授 哲学の梶谷真司先生、②内科医 Dr.ゆうすけさん、③株式会社コルク 佐渡島庸平さん)

・HSCの第一人者である精神科医  明橋大二先生、不登校新聞 石井志昂編集長、元小学校校長  中田慶一先生を招いてお話しをお伺いした座談会

・HSCの第一人者である精神科医 長沼睦雄先生へのインタビュー

・HSCを育てる母たちが語った事例集

・学校に行かない選択の安心材料(公共の支援・民間の支援・家庭学習・コミュニティ・お母さんの仕事・将来の見通し)

・HSCがどのような選択をすることが生きやすさ、個性の開花につながっていくのか

 

HSCを“何から”、“どのようにして”  守りたいのか

~将来と今を大丈夫にするために、何を差し置いても必要だと思うこと~

 

8か月に渡って制作に取り組んできた「HSCを守りたい」。

無事に7月8日刊行日を迎えて以降、心身共に休養が必要な状態になってしまっていました。

本を制作するため、同時にHSCの認知を広めることを目的としたクラウドファンディング実施に伴う準備の段階から数えると、約1年の間、挑戦への恐怖と緊張が続く状態のまま必死に走り続け、無事目標達成にたどり着けた安堵で一気に燃え尽きがきてしまったのでした。

そのため、夏の間は活動を控え、改めて自分の仕事や今後の活動に必要な知識を補充するための時間を過ごしました。

 

しかし、そうしたところ、『HSCを守りたい』に書かれたことの意義を客観的に確認することができました。

また、「HSCを守りたい」と言っても、HSCを何から、どのように守りたいのか・・・いくつも思い浮かぶ中で、より焦点が絞られてきました。

今、焦点は「愛着の問題」と「トラウマ」に当たっています。

 

書籍制作中は、全体のバランスや正確さに意識が集中し、「愛着の問題」「トラウマ」の重要度を今ほど認識できていなかったように思います。

というのもこの本、原案は、精神科医であり、不登校経験を持つHSPの夫によって執筆されたもの。(1章・2章・6章がそれにあたります。)HSCにおける「愛着の問題」や「トラウマ」との関係こそが、夫の原稿の核だったのです。

偶然か必然か、知識の補充期間を過していた私の身にも、「愛着の安定化」を軽視することへの警告のような出来事が立て続けに起こりました。

身をもって体験したことを通して、「愛着の安定化」は、

「将来と今を大丈夫にするために、何を差し置いても必要なこと」

という認識が、改めて明晰になったのでした。

 

HSCは愛着関係の傷・トラウマを抱えやすい

「HSCは、その気質ゆえ、愛着が不安定になりやすい」

「HSCを守りたい」にはそのことについて詳しく記されています。

 

愛着の不安定は、「不安、緊張、生きづらさ、うつ、対人関係の問題、引きこもり、依存症、過食、恋愛問題、DV、離婚、夫婦関係の悩み、子育ての悩み、不登校 etc」これらに共通する根本部分の原因となり得る問題として指摘されているものです。

これらの問題を、ご自身のこととして改善を模索して相談される方は、ほとんどが、心や感覚に敏感さ、繊細さ、感受性の豊かさといったHSC/HSPの気質を生まれ持っていると感じてきました。

やはりHSCは、その気質ゆえに愛着が不安定になりやすく、さらに「不安定な愛着」の影響を強く受けやすいのです。

どのようなことが愛着を不安定にするのかについては、本書52ページ「愛着関係の傷になり得ること」をご参照いただきたいと思います。

 

愛着の傷を安定させるための「安心の基地」

私は、子どもの「行き渋りや不登校は、愛着の安定化に取り組むための大切なきっかけ」と捉えています。

そして、愛着を安定化させるために必要なのが「安心の基地」(愛着理論で言う所の「安全基地」)です。

愛着関係の傷を含むトラウマからの回復に欠かせない3つのポイント(「HSCを守りたい」p101より引用)

①『安心の基地』を構築すること

②子どもがずっと心に留めてきた思いや感情を吐き出そうとする時、それらを受け止め、子どもの痛みに寄り添ってあげること

③子どもの満たされていない心の飢え、(空虚感・孤独感)を満たしていくこと(共感的に子どもの気持ちを汲み取り、子どもの反応や求めに応えようとする関わりが、特に重要である)

 

本書102ページには、

『安心の基地』~愛着関係の傷を含むトラウマ。この後遺症を抱えた子の『安心の基地』になるための「~しない」10項目~

が記載されています。

さらに、「愛着」については、本書177ページ「精神科医  長沼睦雄先生に教わったこと」で長沼先生も詳しくお話しくださっています。

 

目次紹介

では、ここで本書の目次を紹介します。

「HSCを守りたい」目次

  プロローグ

 【第1章】 HSCの基礎知識

 ・日本では、まだあまり知られていないHSC

・HSCの割合は?

・HSCの4つの性質 DOESについて

・HSCの 10 の特徴

・周りにいる「HSCに関わっている大人たち」に対して心がけてほしいこと

・HSCと接する時の 10 のポイント

・人に預けるか、見合わせるかの判断の目安

・愛着関係の傷を負いやすいHSC

・愛着関係における傷を回復させるためには

・学校や幼稚園などの、周囲の環境への不適応と愛着関係の傷

・愛着関係の傷になり得ることとは

・「自己否定感」や「トラウマ」を抱えやすいHSC

 

 【インタビュー①】~学校に行かない選択の安心材料を求めて~ 梶谷真司先生

 

【第2章】 HSCと学校

・HSCのポジティブな面

・学校との相性を知るための、 20 のチェックリスト

・HSCに多い、学校に適応しにくい 17 の特徴

・HSCと不登校

・不登校のHSCに何が起こっているか

・登校を渋るようになった小学1年生の真希さんの例

・「義務教育」の『義務』は、「子どもが学校に行く義務」ではない

・表に出ていない心の傷

・トラウマの後遺症(学校を離れても、起こり得ること)

・回復に欠かせない『安心の基地』

・学校に戻すことが解決ではない

・トラウマ予防に力を注ぐ

 

 【インタビュー②】~学校に行かない選択の安心材料を求めて~ Dr.ゆうすけさん

 

【第3章】不登校でも大丈夫! (子どもの幸せを願う専門家とお母さんの座談会)

精神科医 明橋大二先生/不登校新聞 石井志昂編集長/元小学校校長 中田慶一先生/斎藤暁子/和美さん/マナさん

◇トークテーマ

HSCにとっての学校とは ~HSCにとって、どうすれば学校は「つらい」「行きたくない」場所ではなくなるのか?要望はどこまで伝えられる?~

不登校で、将来は大丈夫? ~「学校に行かなくていい」「好きなことだけすればいい」という意見は魅力的だけれど、将来自立できるのか? 最終的に収入を得られるようになる~

HSCの認知を広めるためには? ~小学校をはじめとする教育機関に、「HSC」の存在を広く知ってもらうためには、どうすればいい?~

 

【第4章】 事例集: HSCを育てる母たちの〝決断〟と〝選択〟

・娘さんの登園渋りをきっかけに、自分の素直な気持ちに向き合った母

・息子さんの不登校に反対する祖父母を説得し、ホームスクールを選んだ母

・学校の意見に流されず、子どもに合った居場所を見つけることに奮闘した母

・10 年の葛藤を経て、何気ない日常の幸せを大切にする子育てにたどり着いた母

 

精神科医 長沼睦雄先生に教わったこと

 

 【第5章】「学校に行かない選択」の安心材料

・公共による支援

・民間による支援

・自宅学習

・不登校に関するコミュニティ

・親の仕事

・将来の見通し

 

 【インタビュー③】~学校に行かない選択の安心材料を求めて~ 佐渡島庸平さん

 

 【第6章】 生まれ持った個性を花開かせる子育て

・「社会性」を問う

・〝慣れさせる〟ことは、HSCにとって必要か

・〝克服させる〟ことは、HSCにとって必要か

・子どもの気質を知るということ

・少数派だからこそコミュニティやつながりをつくることが大切

・脱学校を選択したわが子のこと

・HSC・HSPが才能や能力を発揮できる職業とは

・学校に行かない選択をした子の将来の職業について

・生まれ持った個性を花開かせる子育て

【HSCを生きやすくする7つのこと】

 

おわりに

 

親自身の愛着の安定

現実として、子どもが学校に行かなくなることに対し、親が不安や恐怖にのみ込まれず、子どもの気持ちに寄り添うのは簡単ではありません。

親自身の愛着が安定していなければなおさらです。

しかし、愛着というのは3歳頃までにおおかた形成されるものであり、安定するか不安定になるか、それは生育歴や環境に左右されます。

昔から、教育のシステム上、生まれて数年後には小学校への入学が決まってしまっているのですから、子どもの自然な気持ちや欲求よりも、社会適応が優先される場面は非常に多いもの。まさかその時の対応が愛着を不安定にさせ、人生を左右するなどわかりません。

親は子どもの幸せな将来を願い、愛情を込めて育てているつもりなのに、「愛着」についての知識を持たなければ、知らず知らずのうちに愛着関係に傷がついてしまうわけです。

つまり、私たちの多くは、学校への適応が当然とされる中で育ってきて、安定した愛着が育っているとは言い難いのが実情。

20代は問題なく、うまく適応してきたという人でも、子どもが生まれ親になると、愛着が不安定であることの影響が浮き彫りになって、困難さが表面化してくることも少なくないのです。

 

私自身そうでした。それに、「愛着」に関する知識を得た時、「子どもを産む前に知りたかった」「どうしてもっと大きな声で叫ばれないのだろう」と思いました。

知っていたらしなかったこと、待ったこと、細心の注意を払ったこと、努力したであろうことがたくさん思い当たります。

 

車の運転は、教習所に通って何が安全で何が危険かを学び、免許を取得しなければできません。

でも子育てには、学びや訓練が義務化されることも、資格試験も何もないのです。

ある大きな病院では、出産される方に「愛着」についての冊子か何かが配布されていると伺って驚いたことがあります。

このようなことが一般化することの重要性を強く感じています。

しかし、遅くはありません。

愛着は安定化させることが可能だからです。

子どもに限らず親自身も。 

 

そして、繰り返しになりますが、愛着を安定化させるために欠かせないのが「安心の基地」。

親が子の「安心の基地」になるためには、親自身にも「安心の基地」が必要なのです。

 

HSC子育てラボのオンラインコミュニティ「HSC親子の安心基地」の目的は、まさにそこにあります。

それでも、例えば、HSCや不登校に対する夫婦の考えや価値観、感覚にギャップや溝があれば、深い安心が得られません。

カウンセリングでも、夫婦が揃っている場合は、「安心の基地」の機能を、夫婦や家族が力を合わせて果たせるようになることを目標としています。

 

夫婦がチームになる

HSCの子育て、殊に行き渋りや不登校がある場合は、その子に関わっている夫婦や関係者がチームになる必要があります。

育児に積極的な男性は確かに増えてきていますが、男の人は仕事が優先される風潮や価値観は、時代が変わった今でも潜在意識に深く刻み込まれているようです。

子育てに関する夫婦の役割ついての認識は、もっと大きな変化が望まれています。

『子育ては、お母さんひとりに抱えさせないで』

そのようなメッセージは、子どもの問題を含む様々な角度から発せられているのではないでしょうか。

家事の分担など、目に見えること以上に、目に見えない心理的・精神的負担を「受け止めてくれた」「わかってくれている」「一緒に向き合ってくれている」と感じられることが重要です。

それが、夫婦の愛着の安定、子どもの愛着の安定と、好循環へとつながることは言うまでもありません。

 

「家族で取り組む『安心の基地』構築プロジェクト」

仕事やコミュニティなどでプロジェクトに取り組む場合、目標を掲げ、それを実現させるために力を合わせると思います。

「ほうれんそう(報告・連絡・相談)」や「ありがとう、申し訳ない、お願いします」といった配慮やコミュニケーションだって欠かせません。

自分の特性や限界を知ることも、ヘルプの要請も大事です。

自分だけでは抱えきれない課題を抱え続けたり、本音を言わず我慢し続けたり、会話を蔑ろにしたり、問題や温度差、価値観、方向性のギャップを放置していれば、溝は深まる一方で、遠からず危機を迎えてしまいます。

 

子どもの不登校などは、危機に感じられるかもしれませんが、家族運営の問題に気づいて修復するきっかけとも捉えられます。

「家族で挑む『安心の基地』構築プロジェクト」といったところでしょうか。

 

「HSCを守りたい」には、「学校がつらいと感じているHSC」に、笑顔が戻り、「生まれてきてよかった」と心から思えること、心に傷を負っているのであれば、早いうちに回復させ、親子共に、「将来も今も大丈夫!」と信じることができるようになることを目標としたプロジェクトの推進に必要なことが書かれた本であるとも言えます。

  

さいごに

子どもは、ほとんどと言ってもいいほど「母親」との間で愛着の安定化を求めているのが実情です。

母親は、子どもの思いを肌身に感じながら、正解などわからない中で迷い、葛藤し、一生懸命育ててきた方がほとんどだと思います。

社会が、幼稚園、小学校と、一律のペースで適応することを定めているのだから、そこに合わせさせるのが親の務め、と、登園や登校を渋る子どもの気持ちとの間で葛藤しながらも、子に無理をさせたと悔やむ母親も少なくありません。

たとえHSCを知って子どもの気持ちを尊重することを選んでいても、子どもの感情と社会のシステムや周囲の声との間で葛藤が生じやすく、精神的な負担は大きいのです。

伴侶が「子どもの感情」の側に立って味方になるか、それとも「社会のシステムや周囲の声」側に立つかによって、家庭内や家族の心を満たすものの種類がどうであるかは、想像に難くないのではないでしょうか。

 

『HSCを守りたい』には、子どもの行き渋りや不登校を体験してこられた方々と共通の、「不登校への不安で家族が傷つけあう時間が少しでも短くなるように」との願いが込められています。

子どもが、親に心配をかけたくない、期待に応えたいと頑張るのには、家庭内が波立つのを避けるためとも捉えられます。

そうして必死に頑張ってきたことに、まずは気づいてもらいたい。

学校に行かないことで、親が不安にのみ込まれたり、夫婦が対立したりすることで、子どもの心の傷や罪悪感が深まることも少なくなるように、という思いです。

「HSCを守りたい」(風鳴舎)