
本記事は「心のサインを“回復の道しるべ”に変える6つの視点」シリーズの第1回です。
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見捨てられ不安(愛着不安)の根源は“早期引き離し”にある
子どもが泣き叫び、しがみつき、離れられない——。
それは「適応できていない」からではありません。
それは、子どもが本能で感じている “愛着(アタッチメント)の必要性” が発動しているからです。
精神科医・岡田尊司先生が述べるように、
人が最初に体験する不安の源は
「母親という愛着対象から離れること」 です。
これは、誰にでもある根源的な不安であり、
克服させるべき“弱さ”ではありません。
現代社会が見落としている「早期引き離し」のリスク
ところが今の社会では、
- 保育園の早期入園
- 「早く慣れさせなければ」という風潮
- 大人の都合や制度が最優先される文化
- 母親支援政策の“負の側面”
こうした背景から、
愛着がまだ必要な時期に子どもが親から早く引き離されることが当たり前になっています。
子どもはまだ、
「大丈夫だよ」
という安心の基盤が育ちきっていません。
そんな時期に突然、
親の姿が見えなくなる空間に置かれたら、
子どもにとっては
「この世の終わり」
のような体験(トラウマ体験)になります。
そして、その痛みは後の
- 愛着不安(相手に嫌われること・見捨てられることへの強い不安)
- 対人関係の過敏性・過剰警戒
- 自己肯定感の形成不全
- やがては人間関係の不信、パートナー関係の破綻
- 自傷行為や自殺企図のリスクの上昇
につながることがあります。
「親から子どもを引き離す」という文化そのものが、
将来の、人と関わることへの不安や孤立、少子化の背景にすら関わっている。
それは本来、“社会全体の問題”であるにもかかわらず、
個々の親に責任を押しつける形で議論されてしまう。
親が悪いのではなく、「制度と文化」が親を追い込む
私はここを何度も伝えたいのです。
これは“親が悪い”のではなく、
問題の本質は、
- 社会のしくみ
- 文化の期待
- 教育制度
- “こうしなければ”という集合的プレッシャー
これら「制度と文化の力」が親を追い込み、
“乗っ取られた状態”になってしまうこと。
それが根底にあるということ。
本来の優しさも直感も、
子どものSOSを受け取る感覚も、
その圧にかき消されてしまうのです。
愛着は「ゆっくり・自然に育つもの」
愛着は、本当に必要なものが満たされているとき、
自然とゆるやかに育ちます。
急がなくていい。
無理に慣れさせる必要もない。
子どものペースでいい。
子どもの感覚に合わせて、
ゆっくりと心が育っていけばいい。
私たちは、その理解を、
社会全体で取り戻す必要があるのだと思います。

▶ 次回:②『HSCの親が“制度に乗っ取られる”とき、子どもの心に何が起きるのか』
『HSC子育てラボ』顧問/医師
妻との共著書に『ママ、怒らないで。』[新装改訂版](ディスカヴァ―・トゥエンティワン)、
『学校がつらいよ。無自覚な“学校信仰”がHSCの人生におよぼす影響』がある。
『HSC子育てラボ』代表/心理カウンセラー

