―親が知っておきたい、子どもを追い込まないための視点―

敏感な子どもが受けやすい心の傷
HSC(Highly Sensitive Child)と呼ばれる繊細な子どもたちは、生まれながらにして感受性が高く、周囲の影響を強く受けやすい特性を持っています。
そのため、誘導的なコントロールや押しつけ、干渉的な関わり方、不適切な距離の取り方などに、より深く影響を受けやすいのです。
小さな出来事であっても、HSCにとってはトラウマとして心に深く刻まれてしまうことがあります。
幼少期に愛着の傷やトラウマを受けたHSCが、ケアされないまま成長することで、思春期・青年期において人間関係の生きづらさ、不安障害やうつ、摂食障害や依存症など、さまざまな心の問題として表れることが少なくありません。

「不適切な養育・関わり」の背景にあるもの
HSCを苦しめる要因のひとつに、親の「不適切な養育・関わり=マルトリートメント」があります。
それは、愛情や関心の不足、否定的な関わり方、誘導操作的なコントロール、押しつけや干渉、善意を名目とした侵入などです。
しかし、こうした関わりを親がしてしまう背景には、「親自身の誤った信念」や「社会的な圧力」があることを理解する必要があります。
その代表例が、「義務教育に対する誤解」や「学校信仰」です。
そしてそれらに共通するのが、「子どもは学校に行かなければならない」という思い込み。
実際には、義務教育とは“子どもが教育を受ける権利”を守るものであり、“学校に通わせる義務”ではありません。

「学校に行かせなきゃ」という思い込みが、親子を追い込む
多くの保護者が、正しい情報に触れられないまま、「子どもを学校に行かせなければ」と駆り立てられています。
その結果、子どものペースや気持ちを受け止める余裕がなくなり、焦りや不安の中で「他の子より遅れている」「劣っている」と感じ、厳しい言葉をかけてしまう。つまり、それが気づかないところで不適切な養育・関わり=マルトリートメントになっていくというものです。
これはまさに「乗っ取られた状態」と言えます。
もし親が「そうではない」ということを正しく理解できたなら、極端な話、子どもの命を守ることにもつながります。
不登校をはじめ、自殺や自傷行為などの深刻な事態の背後には、こうした社会的な思い込みが関係していることが少なくありません。

「学校に行かなくても卒業できる」という事実
たとえば、学校がつらくてどうしても行けない時、 「保健室登校なら出席扱いになる」と言われると、 子どもは“行かないと卒業できない”と思い込んでしまうのではないでしょうか。
私自身も中学3年で学校に行けなくなった時、 留年への恐怖から「死んだほうがまし」だと感じていました。
「学校に行かなくても卒業できるよ」
その一言に救われる子ども・人生・命はどれほどあるだろうと思うのです。
では「学校に通わなくても卒業できる」のでしょうか?
拙著『学校がつらいよ。』の巻末付録「脱学校して育ったわが子」にも記したように、 私の息子はホームスクールという形を取る意向を学校に伝え、小学校も中学校も一度も出席していませんし、 卒業式にも参加していません。
それでも卒業証書が授与されたように、 義務教育では不登校を選択しても、“卒業”という形はきちんと取れるのです。

『学校がつらいよ。無自覚な“学校信仰”がHSCの人生におよぼす影響』
斎藤 裕・斎藤 暁子 p309 巻末付録より
義務教育の「義務」とは、子どもに教育を受けさせる義務であり、それは学校でなくても構いません。
自宅であっても、学びの環境を整え、教育の機会を確保できていれば、その義務を果たしているとみなされます。
しかし、この事実を知っているのはごく一部に限られ、肝心の子どもたちや保護者には正しく伝わっていません。
「乗っ取られた親」から「本来の親」へ
子どもの心に深く寄り添うためには、まず親が社会的な思い込みから解放されること。
「子どもが学ぶための環境を整え、教育の機会を確保する義務を親が果たしていれば学校に行かなくてもいい」という現実を知り、安心して子どもの気持ちに向き合うこと。
その認識が広がっていけば、子どもたちはもっと自由に、自分らしい成長の道を歩むことができます。
それが、私にとってこのテーマの“集大成”とも言える思いです。

詳しくは『学校がつらいよ。』で
本記事の内容は、拙著『学校がつらいよ。無自覚な“学校信仰”がHSCの人生におよぼす影響』でさらに詳しく解説しています。
この本では、HSCの繊細さを生かしながら、
「親子が安心して生きられる教育のかたち」を取り戻すための視点をまとめました。
学校という枠に縛られず、子どもの尊厳を守るために。
今、知っておいてほしい“本当の義務教育”の姿を、多くの方に届けたいと願っています。

学校がつらいよ。無自覚な“学校信仰”がHSCの人生におよぼす影響: 「繊細な子」が抱える心の傷を癒やし、不足した愛着(アタッチメント)を取り戻すアプローチ
『HSC子育てラボ』顧問/医師
著書に『ママ、怒らないで。』[新装改訂版](ディスカヴァ―・トゥエンティワン)、
『学校がつらいよ。無自覚な“学校信仰”がHSCの人生におよぼす影響』がある。

