執筆者:斎藤 裕(精神科医)

日本での歴史が浅く、まだ認知度の低いHSC

HSC(Highly Sensitive Child)とは、生まれつき『とても敏感な“子ども”』のことで、
『とても敏感な“人または大人”』のことはHSP(Highly Sensitive Person)と言い、いずれもアメリカの心理学者、エレイン・N・アーロン博士によって提唱された概念です。

その歴史を紐解くと、アーロン博士によって、「敏感さ」の本質を理解するためのたくさんの調査と研究が重ねられ、1996年にまずアメリカで『The Highly Sensitive Person』というタイトルで書籍が出版されました。この本は大ベストセラーになり、その後世界各国で翻訳出版されています。

日本では、2000年に『ささいなことにもすぐに「動揺」してしまうあなたへ。』(富田香里訳/講談社)というタイトルで翻訳出版(現在、SBクリエイティブより刊行)されて以来、HSPという言葉は、徐々に知られるようになってはいます。

一方で、HSCという言葉はそれより大幅に遅く、すでに2002年にはアーロン博士によって『The Highly Sensitive Child』というタイトルでHSCについて詳しく書かれた本が出版されていたものの、日本語に翻訳され、『ひといちばい敏感な子』(明橋大二訳/一万年堂出版)として日本で出版されたのが2015年と、まだ年数も浅いので認知度も低いようです。
また認知度が低い要因として、HSC(HSP)自体は、障がいや病名ではなく、あくまでも心理学的な概念なので、医療関係者における認知度がまだ高くないというのも、理由の一つと思われます。

HSCの割合は?

アーロン博士が行ってきた調査や研究によると、子ども全体の15~20%(ほぼ5人に1人)がHSC(Highly Sensitive Child)に該当するとしています。

ただし、中にはHSC(HSP)という敏感さと、HSS(High Sensation Seeking=刺激追究型)もしくはHNS(High Novelty Seeking=新奇追究型)という強い好奇心を併せ持っているタイプの子(人)がいます。このタイプは、新しい刺激を求めて活発に活動する傾向が強く、また、自分の思いを通そうとする傾向も強いなどの特性から、敏感性が隠れてしまいやすい傾向が見られます。そのため敏感性が存在することに気づかれにくいのです。しかしその一方で、HSC(HSP)の特徴である自分の内側に意識が向いて、物事を深く考えるところがあるのです。
子ども時代は、「言うことを聞かない子」「怒りっぽい子」「扱いにくい子」と思われがちですので、このタイプの特徴をよく理解することが大切です。

「内気」や「引っ込み思案」や「臆病」というのは、生まれつきのもの?

Highly Sensitive、つまり「とても敏感」というのは “気質”のこと。
“気質”というのは、生まれつき備わった性質のことです。

育つ環境や人間関係、特に親との関係に適応していくために、様々な要素を取り入れながら、後天的にその多くがつくられていく「性格」とは違って、生まれ持った「気質」=Highly Sensitive(高い敏感性)は、本質的には大人になっても変わることはありません。

一般にHSCは、「内気」とか「引っ込み思案」とか「神経質」とか「心配性」とか「怖がり」とか「臆病」などとネガティブな性格として捉えられがちです。
しかし、「内気」「引っ込み思案」「神経質」「心配性」「怖がり」「臆病」な性格というのは、生まれ持った“先天的なもの”ではなく、“後天的なもの”であり、これらは、「トラウマ」や「ストレス」などの過去のつらい体験が影響しているものと考えられています。

敏感性の高い気質の子が一旦つらい体験に遭遇すると、その時の「トラウマ」や「ストレス」に関連した場所・場面・人などに対してや、不安や恐怖を呼び起こすような環境・状況・関係などに対して、警戒心が強くなって過剰に敏感(過敏)になりやすい。
そして些細なことにも過剰に反応するようになったり、不安が高まるような状況や新しい人・場面なども回避するようになったりしやすいのです。
したがって、「内気」「引っ込み思案」「神経質」「心配性」「怖がり」「臆病」な性格というのは、いずれも人間関係や育つ環境などの後天的な要素によってもたらされたものと言えるのです。

HSC(HSP)の特徴

HSC(HSP)の基本的な特徴について、10項目にまとめてみました。

HSC(HSP)の10の特徴

※個人差があり、当てはまるものや、その強弱は、人によって異なります。また、HSC(HSP)という敏感さと、HSSHigh Sensation Seeking=刺激追究型)もしくはHNSHigh Novelty Seeking=新奇追究型)という強い好奇心を併せ持っているタイプの子(人)が存在しますが、ここではHSC(HSP)の特徴について記し、HSS・HNSの特徴については触れていません。

①刺激に対して敏感である。音・光・痛み・かゆみ・肌ざわり・暑さ寒さ・空腹などに敏感に反応しやすい。
細かいことに気がつく(些細な刺激や情報でも感知する)。かすかな音や臭い、ちょっとした味の違いに気がつく。そのほか、物や配置、人の些細な変化にもよく気がつく。

②過剰に刺激を受けやすく、それに圧倒されると、ふだんの力を発揮することができなかったり、人より早く疲労を感じてしまったりする。
人の集まる場所や騒がしいところが苦手である。
誰かの大声や、誰かが怒鳴る声を耳にしたり、誰かが叱られているシーンを目にしたりするだけでつらい。

③目の前の状況をじっくりと観察し、情報を過去の記憶と照らし合わせて安全かどうか確認するなど、情報を徹底的に処理してから行動する。
そのため、行動するのに時間がかかったり、新しいことや初対面の人と関わることを躊躇したり、慣れた環境や状況が変わることを嫌がる傾向にある。
急に予定が変わったときや突発的な出来事に対して混乱してしまいやすい。            新しい刺激や変化を好まないのは、“刺激への馴れが生じにくいこと”の影響も大きい。

④人の気持ちに寄り添い深く思いやる力や、人の気持ちを読み取る力など『共感する能力』に秀でている。
細かな配慮ができる。

⑤自分と他人との間を隔てる「境界」が薄いことが多く、他人の影響を受けやすい。
他人のネガティブな気持ちや感情を受けやすい。

⑥直感力に優れている。
漂っている空気や気配・雰囲気などで、素早くその意味や苦手な空間・人などを感じ取る。
先のことまでわかってしまうことがある。
直観力がある。
物事の本質を見抜く力がある。
物事を深く考える傾向にある。思慮深い。
モラルや秩序を大事にする。正義感が強い。
不公平なことや、強要されることを嫌う。

⑦内面の世界に意識が向いていて、豊かなイマジネーションを持つ。
想像性・芸術性に優れている。
クリエイティブ(創造的)な仕事に向いている。

⑧静かに遊ぶことを好む。
1対1や少人数で話をするのを好む。
自分が交流を深めたい相手を選び、その相手と同じことを共有し、深いところでつながって共感し合えるようなコミュニケーションを好む傾向にある。
大人数の前や中では、力が発揮されにくい。
自分のペースで思索・行動することを好む。
自分のペースでできた方がうまくいく。
やらされたり、観察されたり、管理されたり、評価されたり、急かされたり、競争させられたりすることを嫌う傾向にある。

⑨自己肯定感が育ちにくい。
外向性を重要視する学校や社会の中で、求められることを苦手に感じることが多く、人と比較したり、うまくいかなかったりした場合に自信を失いやすい。

⑩自分の気質に合わないことに対して、ストレス反応(様々な形での行動や症状としての反応…HSCの場合「落ち着きがなくなる」「固まる」「泣きやすい」「言葉遣いや態度が乱暴になる」「すぐにカッとなる」、「不眠」「発熱」「頭痛」「吐き気」「腹痛」「じんましん」など)が出やすい。
細かいことに気がついたり、些細な刺激にも敏感に反応したり、過剰に刺激や情報を受け止めたりするため、学校や職場での環境や人間関係から強いストレスを感じてしまい、不適応を起こしやすい。
人の些細な言葉や態度に傷つきやすく、小さな出来事でもトラウマとなりやすい。

HSCは鋭い感性と感受性・想像性に富み、人の気持ちを読み取ってそれに寄り添ったり、その場の空気を感じ取ったりするなど、思いやりや共感力・直感力に優れていて、繊細で細かい気配りができるなどのポジティブな面を持っています。
がしかし、生活の場が家から園や学校などの外の世界に移った途端、そのポジティブな面は影を潜めます。
例えば、自分のペースで物事を行うことができなくなったり、刺激を受けすぎて圧倒されたりすると、落ち着きがなくなったり、話を聞けなくなったり、物事がうまくできなかったりするなど、ネガティブな面が多く表に出てきてしまいやすいという傾向が見られるのです。

『発達障がい(神経発達症)』のように感じられることも

HSCは、落ち着いた環境では強い集中力を発揮しますが、刺激が多過ぎる・騒がし過ぎる環境では、集中力がなく気が散りやすく、衝動的で落ち着きがなくなるなど、ADHD(注意欠如・多動症)のような反応を見せることがあります。

また、感覚の敏感さという点では、HSCの気質としての敏感さと自閉スペクトラム症の症状としての感覚過敏とで重なる部分もありますが、HSCでは、人の表情や目の前の状況などの社会的な手がかりとなる情報を選んでそれに注意を向け、人の気持ちや物事の内容を深く読み取ったり、場の空気を感じ取ったりするなどの情報を処理する力や状況を直感的に把握する力が高いのに対して、自閉スペクトラム症では、刺激や情報を選択的に受け取ったり注意を向けたりすることが困難で、情報を処理する力や状況を直感的に把握する力も低いという大きな違いが見られます。

そして、HSCは繊細で傷つきやすいゆえに、愛着関係における傷を含め、トラウマ(心の傷)を抱えやすく、それによって起こる症状が、発達障がいの症状と似ているため、発達障がいのように感じられるケースも存在するのです。

上記の、HSCが持つ、“鋭い感性と感受性・想像性に富み、人の気持ちを読み取ってそれに寄り添ったり、その場の空気を感じ取ったりするなど、思いやりや共感力・直感力に優れていて、繊細で細かい気配りができるなどのポジティブな面”が見られるか。見られる場合はそれが、『家庭内や慣れた人、場所』と、『慣れない・苦手な人や場所』とでどのように変化するか、じっくり観察してみられることをおすすめします。

HSCは、その子のHSCの特徴に関する知識や周りの理解が得られなかったこれまでは、「育てにくい子」や「わがままな子」として見られたりレッテルを貼られてしまったりしてきました。
そのため、周りの大人の人たちがHSCの気質の特徴を理解し、その気質を「その子らしさ」として肯定的に受け止め、その特性とうまく付き合ってあげることが必要なのです。

その要点として次の10個を挙げてみました。

HSCの自己肯定感を削がないための、接する時の10のポイント

①指示や口出しをせずに、できるだけ見守る。

②無理強いをしない。急かさない。圧力を加えたり、叱ったりしない。

③その子に合ったやり方やペースを尊重する。

④良いところは褒める。ただし、褒めながら誘導することは控えめに。子どもを褒めることは子どもの自己肯定感を育むうえで大切だが、子どもを褒めることに誘導が加わると、親や大人のイメージ通りになるように仕向けるという意図が加わることになるため、これが日常化した場合、子どもの主体性(自分の意志・判断によってみずから責任をもって行動する力)が育ちにくくなる恐れがある。

⑤ほかの子と比べたりしない。

⑥いざという時の逃げ場所や落ち着ける場所を確保しておく。

⑦疲労が溜まらないうちに早めに休憩を取る。

⑧嫌だったこと、怖かったことなどに対して、その時の気持ちを受け止めてあげる。うまく言葉にできないうちは、泣くことで解放させてあげることも大事。その時も優しい気持ちで見守ってあげると、徐々に落ち着いてきて元気になることが多い。

⑨苦手な場所・苦手なこと・苦手な人を子どもと共に確認して、苦手なものからはっきりと距離を取らせてあげる。あらかじめ苦手であろうことには近づかないか、後回しにするなど、事前に打合せをしておく。

⑩子どもを人手に預ける、子どもを園や習い事に通わせるなど、子どもを母親から離そうとする時に、それを嫌がっていたり、15分以上泣き続けていたり、いったん泣きやんでもまたぐずっていたりするようなら、見合わせる。

HSCに関わる周りの大人の人たちのHSCに対する理解が深まり、HSCが肯定的に受け止められていくことによって、『自分が感じていることはこれでいいんだ』『このままでいいんだ』という「自己肯定感」を肌で感じながら自分らしく生きていけるようになることを願っています。