●回復に欠かせない『安心の基地』
トラウマからの回復の鍵を握るのは、安心して過ごすことができる『安心の基地』が確保されるかどうかです。
『安心の基地』とは、上下の関係や支配・押しつけ・拒否・無関心・無視・差別・暴力・喧嘩・口論などがなく、子どもの考えや感情が否定されずに共感的・肯定的に受け止められながら安心して過ごすことができる場所のこと。
つまり子どもの安全が保障され、承認・共感・受容をもって関わられるという安心感と信頼感を備えている基地のことです。
今までのような、感情を抑圧せざるを得なかった環境から離れ、安心して自分の感情を感じ、自由に表現できるような安全・安心な環境に身を置いた時、脳(心)は回復の動きを始めます。
まず、脳(心)が安全を感じ取ると、感情への否認や感情の抑圧が解け、今まで閉じ込めてきたネガティブな感情を解放し始めます。
それは、今まで見ないように感じないように心の奥に押し込んできた、本来の自分の感情や欲求がよみがえってきたことを意味するとても重要な過程なのです。
ですから、自分の心に従って判断し、行動していくための自由さを伸ばすことができる「育ち直しの時間」を十分に取る必要があるのです。
子どもによっては、幼い頃に戻ったように、わがままを言う、思い通りにいかないことで癇癪を起す・暴れるなどして、親を困らせるような言動が目立つこともあるかもしれません。
また、逆に親に指示する、命令するなど、これまで我慢してきた分の反動が出るかもしれません。
幼い頃から登園・登校過程の様々な場面で体験してきた「不安で不安でいっぱいだったが何も言えなかったこと」や「わかってもらえなかったこと」「傷ついて悲しくて仕方なくても甘えられなかったこと」など、子どもがずっと心に溜めてきたものを吐き出させること。
それは、心の傷を修復していくために必要な過程です。
否定や拒絶をせずに、それらをしっかりと受け止め、言葉にできなかった痛みに寄り添えるかどうかが重要になります。
学校に行けなくなった子どもは、
「学校に行かなくてもちゃんと明るい将来はある」
「あなたは、今いる環境よりももっと、持って生まれた才能を開花させることができる別の選択肢を選んだ方が良い」
と語ってくれる存在に救われます。
目の前の環境や関係の中で生きづらさや苦しみを抱えている子どもにとって、このように語ってくれる人の存在が必要であるのと同時に、「大丈夫」「心配ない」と思うことができる『安心の基地』を構築することがとても大切なのです。
『安心の基地』
~愛着関係の傷を含むトラウマ。この後遺症を抱えた子の『安心の基地』になるための「~しない」10項目~
『安心の基地』とは、繰り返しになりますが、上下の関係や支配・押しつけ・拒否・無関心・無視・差別・暴力・喧嘩・口論などがなく、子どもの考えや感情が否定されずに共感的・肯定的に受け止められながら安心して過ごすことができる場所のこと。
つまり子どもの安全が保障され、承認・共感・受容をもって関わられるという安心感と信頼感を備えている基地のことです。
特に、愛着関係の傷を含むトラウマの後遺症を抱えた子どもにとって『安心の基地』は非常に重要で、そこは、子どもの自己肯定感と主体性が削がれるようなことがない場所であるとも言えます。
~子どもの自己肯定感と主体性を削がない『安心の基地』になるための「~しない」10項目~
①非難や批判、拒絶、否定、きょうだい間での(ほかの子との)比較をしない
例:「あなたにはガッカリした」
「そんな子はうちの子ではありません」
「あんたなんか産まなければよかった」
「そんな子に育てたおぼえはありません」
「もう知りません」「勝手にしなさい」
「あんたは本当に親を困らせる子だね」
「お姉ちゃん(お兄ちゃん)なんだからもう言われなくてもわかるでしょ」
(以下の言葉は、子どものペースより学校のペース・ほかの子のペースに合わせることが当たり前になっている時や、子どもの気持ちよりも世間体や社会の常識が優先されている時に出やすい)
「みんなはできているのに、あなたはどうしてできないの?」
「そんなこといちいち気にしないの」
「クヨクヨ考えすぎ」
「そんなことぐらいで泣かないの」
「イライラさせないで」
「我慢しなさい」「はっきりしなさい」
「グズグズしないの」
「そんなことだと世の中渡っていけないよ」
「そんなふうに怒ったら、人に嫌われるよ」
「わがまま言わないで」
「だまって親の言うことを聞いておきなさい」
など。
②指示(口出し)をしない。もしくは、必要最低限に抑える
その時も『私はこうしたいと思うけれど、あなたはどう思う?』というような「説明」と「合意」を行う。
③自分の価値観を押しつけない
自分の考えの枠に当てはめさせようとしない。
(特に、あなたのためになると言って受け入れさせるような関わり方には注意を要する)
④義務、役割を課さない
すべて子どもの「主体性」に任せる。
⑤思い込みで判断しない
「子どもはきっと〇〇してほしい(してほしくない)のだろう」などと親側が思い込むと、子どもは気持ちやニーズを言いづらく、心が詰まるので、本人の発言や態度に隠れた本音と向き合う。
⑥子どもがまるでそれを望んでいるかのようにコントロールしない
(例えば、親が望むような行動を取らない子どもに対して、がっかりした態度・悲しそうな表情・落ち込んだ素振りを示し、親が望むような行動を取る子どもに対して、機嫌が良い・大喜びするといった態度を繰り返していると、親の意向を敏感に感じ取る子どもは、親の意向に沿うような、または、親の期待に応えるような習慣が身についてしまう。このように習慣づけられた子どもは、まるで自分がそれ⦅親の意向⦆を望んでいるかのような振る舞いを示しやすくなる)
⑦むやみに根掘り葉掘り聞かない
(子どもが話したくないことを、心配だからという理由で引き出そうとすることがあるので要注意)
⑧子どもの口からネガティブな発言が出たとしても、反論をしない。
その気持ちをそのまま受け止めるような姿勢で、ただ耳を傾ける。
⑨怒らない。叱らない。あるいは、怒る(叱る)ことをできる限りなくす
HSCには話して聞かせるだけで十分である。
ただし、親を怒らせる・困らせるような現象が続く場合は、その現象自体に意味があるため、拙著『ママ、怒らないで』のp130~133をご参照ください。
⑩子どものニーズを確認せずして、助言やアドバイスをしない
共感的に子どもの気持ちを汲み取ってそれに寄り添い、子どもの反応やニーズに応えようとする姿勢を重視する。
『安心の基地』を構築することは、愛着を安定したものにするということでもあるのです。
愛着の安定は、オキシトシンの分泌を活性化します。
オキシトシンとは、脳の視床下部で作られ、脳下垂体後葉から分泌されるホルモンで、一般に分娩・授乳や母性に関わるホルモンとして知られています。その他にも、対人関係を安定しやすくし、ストレスや不安を抑え、傷つきやすさを和らげる働きを持つとも言われています。
オキシトシンの分泌が活性化されることによって、自己肯定感が高まったり、対人関係における喜びや、生きる喜びが感じられやすくなるのです。
つまり、『本来備わっている力』『生きる力』を取り戻すことにつながっていくことになります。
参考文献:『愛着障害の克服:「愛着アプローチ」で、人は変われる』岡田尊司/著(光文社新書)
愛着関係の傷を含むトラウマからの回復に欠かせない3つのポイント
①『安心の基地』を構築すること
②子どもがずっと心に溜めてきた思いや感情を吐き出そうとする時、それらを受け止め、子どもの痛みに寄り添ってあげること
③子どもの満たされていない心の飢え(空虚感・孤独感)を満たしていくこと(共感的に子どもの気持ちを汲み取り、子どもの反応や求めに応えようとする関わりが、特に重要である)