子どもが園や学校への行き渋りや不適応を示した時、ほとんどの親御さんはネット検索をしたり、知人に相談するなどして、対応や判断を模索されると思います。

中にはカウンセリングを申し込んで相談して下さる方や、コミュニティに参加して詳しくお話して下さる方もいらっしゃいますので、不安や、周囲の方々からの言葉や圧迫感などについて具体的に伺うこともあります。

そのような中で感じることは、子どもを休ませる判断をされた保護者の方は、様々悩んで調べて「学校に行かない選択」の“安心材料”を取り揃えるなどして、なんとか大丈夫と思えるようになったとしても、周りの方からの働きかけに、どうしても揺さぶられてしまうということです。

そこで今回は、

世間一般の “当たり前” よりも、子どもに寄り添う判断や選択をする理由、動機として重要と感じている「愛着」についてを、勉強会風に、斎藤 裕医師(精神科医)にインタビューする形でお伝えしたいと思います。

 

知っておきたい愛着形成のこと

斎藤暁子

『HSCを守りたい』第1章の後半には、「愛着」という言葉がたくさん出てきます。まずは「愛着」について改めて説明をお願いします。

斎藤 裕医師斎藤 裕医師

「愛着(アタッチメント)」とは、子どもと特定の存在(親、養育者)との間に形成される情緒的な関係=絆のことをいいます。

この愛着には、対象に対する選択性があり、愛着の対象となった人にだけ、愛着行動が見られ、それ以外の対象に対しては、むしろ愛着行動は抑えられるといいます。

愛着の対象となった人、例えば親から、授乳・抱っこ・愛撫といった十分なスキンシップや、共感的で豊かな反応を伴った関わりを持たれることによって、子どもに安心感と満足感がもたらされ、安定した愛着が形成されていくのです。

安定した愛着が形成されるにしたがって、心の中に「自分のことをいつも受け止めてくれる親がいる」、「必要な時に求めに応じてくれる、困った時に助けてくれる親がいる」という感覚が育っていきます。

そのような安心感と信頼感が子どもの心に内在化されることによって、親がいつも一緒にいなくても次第に安心して過ごせるようになっていきます。そして、その安定した愛着を土台にして、少しずつ外の世界に対して関心を示していけるようになるのです。

安定した対人関係は、この「愛着」という情緒的で温かい信頼関係をもとに成り立っています。安定した愛着は、対人関係を安定したものにするのです。

つまり愛着形成は、対人関係の基本中の基本なのです。

斎藤暁子

愛着の形成がうまくできていないと、どのような問題がありますか?

斎藤 裕医師斎藤 裕医師

愛着の形成が不十分で、親子間に安定した愛着の土台が育っていなかったり、あるいは、愛着が形成される3歳頃までの時期に、親から引き離された・見捨てられるように感じたなどの体験によって、親子間の愛着関係に傷が入り、愛着の土台が不安定になったりすると、親との関係だけでなく、親以外の人との関係も不安定になりやすくなります。

また、愛着が不安定になると、ストレスに対しても脆弱性を抱えがちです。

特に敏感で繊細な遺伝的気質を持つHSCでは、その傾向が強いと考えられ、親との分離に関する不安が非常に強まったり、ストレス反応がさらに起こりやすくなったり、ささいな出来事でもトラウマになりやすかったりするため、5歳頃までは慎重に対応する必要があると考えています。

斎藤暁子

私は、「愛着」という言葉を知らずに子育てを始めましたが、3歳頃まではほとんど抱っこ状態だったり、子どもの求めに応じていたので、愛着形成には何ら問題ないと思っていました。

でも、自分では思いもよらないことが、子どもとの愛着関係に傷をつくることもあるのですよね。

ただそれも、HSCという生まれ持つ気質も関係しているんですよね。

 

HSCの多くに抱えているとされる“見捨てられ不安”

斎藤 裕医師斎藤 裕医師

これは、HSCを持つ親御さんとの会話の中からわかっていったことなのですが、学校という制度の存在によって、それらの親御さんの多くが、家以外の環境に、子どもを早いうちから適応させておきたい、慣れさせておきたいという思いに駆り立てられ、幼い頃から子どもを保育園や人の手に預けるということが起こりがちです。

早く集団に慣れさせたほうが良いという周りの流れや声も影響したりします。

ところが、3歳未満、特に1歳未満で人の手に預けることは、愛着や発達面でも影響が出やすいとされています。

とりわけHSCでは、その傾向が強いと考えています。

このデリケートな時期に、「保育園に預けられる」「人の手に預けられる」など、親から引き離されるという体験をしたHSCでは、愛着関係に傷が残り、それが強い不安となって尾を引きやすく、“見捨てられ不安”を抱えているケースが多く見られます。

斎藤暁子

たしかに。子どもが2歳半の頃に、本格的に仕事をしなければと思って保育園に申込み、何度か預けましたが、本人が嫌がり、心身にもトラブルが起こったので見合わせました。

それでも息子の場合は、まさに強い不安となって尾を引いて、ひどい後追いが 1年以上続きました。

斎藤 裕医師斎藤 裕医師

“見捨てられ不安”を抱えるわけですね。それを示すサインには次のようなものがあります。

〈“見捨てられ不安”を抱えていることを示すサイン 〉

①親のそばを離れないことが多い。 

②少しでも親が離れていきそうな気配を感じた時に、強い不安を示す。 

③親の姿が見えないと、激しく泣いてパニックになる。 

④いつも親の顔色をうかがっている。 

⑤親から拒否されること・関心を示されないことに敏感になっている。 

⑥親の気を引くような行動・親を困らせるような行動が増えている。 

斎藤暁子

⑤⑥はさほど無かったと思いますが、①~③はしっかりありました。④は、私が不安定だと、それを敏感に感じているのがわかりました。でも当時はわからないから、とにかく不安の強い子としか考えなかったですね。

斎藤 裕医師斎藤 裕医師

そして、愛着関係の傷(見捨てられ不安)の修復がなされないまま、すなわち、愛着の土台が不安定となってストレス耐性が下がったまま、登園・登校の時期がきて、行きたくないところへ行かされる、やりたくないことをやらされるなどの体験が続くことによって、人や環境に対する安心感、自尊心や自己肯定感が脅かされていきます。

脅かす環境や関係性から離れたり、あるいは、殻に閉じこもったりすることで自分を守ろうとするため、登園・登校渋りが出ても何ら不思議ではないです。

このような経緯から、登園・登校を渋るHSCでは、かなりの頻度で、以下の『分離不安障害』が起こっているものと考えられます。

 

〈『小児期の分離不安障害』の診断基準:ICD(国際疾病分類)-10.医学書院.P278-279より抜粋〉

診断の鍵となるのは、愛着の対象(通常両親あるいは他の家族成員)から別れることを中心とした過度の不安であり、さまざまな状況に関する全般的な不安の単なる一部分ではない。この不安は次のような形をとりうる。

強く愛着をもっている人に災難が降りかかるという非現実的な、現実離れした心配に心を奪われる。あるいは彼らが去って戻らないだろうという恐れ。

迷子、誘拐、入院、あるいは殺されるという災難によって、強く愛着をもっている人から引き離されてしまうという非現実的な心配に心を奪われること。

・分離の恐れのために、(学校での出来事を恐れるというような他の理由からでなく)登校を嫌がり、あるいは拒否し続けること。

・強く愛着をもっている人が近くか隣にいなければ、眠るのを嫌がり、あるいは拒否し続けること。

・一人で家にいること、あるいは強く愛着をもっている人なしで家にいることへの持続的で度の過ぎた恐れ。

・分離に関する悪夢を繰り返す。

・身体症状(悪心、胃痛、頭痛、嘔吐などの)が、強く愛着をもっている人からの分離をともなう状況の際に繰り返し起こること。たとえば家を離れて学校に行く場合。

・強く愛着をもっている人からの分離を予想したとき、その最中、あるいはその直後に、過度の悲嘆を繰り返すこと(不安、泣くこと、かんしゃく、みじめさ、無感情、あるいは社会的引きこもりとして現れる)。

気質のことだけで留まってしまわず、愛着形成ができているか、といったことを見つめることが必要

斎藤 裕医師斎藤 裕医師

子どもが不適応を起こしたら、例えば、その子が持つ遺伝的気質に焦点を合わせて、学校などの環境を、できるだけその子の気質に合ったものに整えてもらえるように働きかけたり、学校以外で、その子の気質に合うような教育の場を選択したりすることを試みられるのではないかと思います。

しかし、愛着の問題が絡んでいる場合、まずはそこに焦点を合わせることが重要なのです。愛着に手が施されなければ、ストレス耐性の低下や、発達上の問題・情緒面や行動面の問題を抱えやすくなるだけでなく、将来にわたって、対人関係面での生きづらさを抱えていくことにもなり得ることを知ってもらいたいのです。 

        

〈大人になってからも、幼少期の愛着関係における傷(見捨てられ不安)を引きずっていることを表す習慣や傾向〉

▢人の顔色に敏感で、自分が嫌われていないか不安になる。

▢自分のことを周りの人がどう思っているのかとても気になる。

▢人に認められたいという思いが強い。

▢見捨てられることに対して敏感である。例えば、相手から自分のことを受け入れてもらえていないと感じると、傷ついたり、不安になったりする、あるいは、強い怒りを覚え、頭に血がのぼってしまう。

▢一人では不安だったり孤独を感じたりするので、いつも誰かと一緒にいることが多い。

▢少しでも親しい友人が離れていきそうな気配を感じただけで、強い不安を覚える。

寂しさや孤独感と向き合うのを避けて、すぐに何らかの手段を用いて紛らわそうとしたり誰かと関わろうとしたりする。

4個以上→見捨てられ不安が強く、対人関係面での生きづらさを抱えている可能性が高い。

2~3個→強いとまでは言えないが、対人関係面に若干の影響が出ている可能性がある。

 

まだまだ普及されていない「愛着」のこと

斎藤暁子

愛着」に関する知識は、非常に重要だと思うのですが、一般には、あまり重要視されている感じがしませんよね。

斎藤 裕医師斎藤 裕医師

日本ではまだまだ普及されていないと思っています。

3歳頃までの子育ての重要性が問われるのは、愛着が形成され、分離不安がもっとも高いとされるのがこの時期だからではないかと思うのですが、現代の子育てでは、お母さんひとりが負荷やストレスを抱えることが多く、「愛着」というとプレッシャーに感じられたりもします。

注意すべき点は、母親だけに子育てを任せたり、責任を負わせたりするという意味ではないということです。

斎藤暁子

そうなんですよね。特にHSCにおいては、このデリケートな時期に、母親から引き離された体験によって愛着関係に傷が残り、強い不安となって尾を引きやすい、と知ると、そうなることを回避する方向に意識が向くと思います。

ただ、多くの場合、手放さないといけないものや負担・不安など、やっぱり母親ばかりが向き合わなければならないのが実情だと思うのです。

愛着形成の重要性や知識については、自分だけに留めず、パートナーとも共有する必要がありますね。

 

後からでも愛着は形成し直せるのか?

斎藤暁子

3歳頃までの子育ての重要性ということについてもうひとつ。

3歳頃までに愛着の形成がうまくできなかったり、その後も愛着関係の傷を抱えたりした場合についてはいかがでしょうか。

斎藤 裕医師斎藤 裕医師

傷の回復には、親が子どもに対して共感的で応答性の豊かな関わり方をして、子どもの心を親の愛情で満たしていくことがとても大切です。

「親の愛情で満たす」というのは、できるだけ子どもの近くにいて、抱っこ・ハグ・手をつなぐなど、子どもが好む十分なスキンシップを取ることです。
また同じことを共有したり、喜びに共感したりする体験を通して、子どもの気持ちを汲み取り、子どもの反応やニーズに応えようとする親の関わりやその温もりを、子どもが肌で感じながら安心感に包まれていくことです。

そのような関わりから、『自分は親から愛されている』『大切にされている』『理解してもらえている』『必要な時に守ってくれる』というイメージ、あるいは、そう信じられる感覚が子どもの心に内在化されていくと、親が目の前からいなくなっても安心していられるようになっていきます。

これが愛着の形成ですが、正確に言えば、「安定した愛着を形成し直す」ということです。

登園・登校渋りが起こっているHSCでは、かなりの頻度で、『分離不安障害』が起こっているものと考えられますので、その場合は、安心して過ごすことができる安全な場所(『安心の基地』)の構築と、愛着関係の傷を修復していくために、子どもがずっと心に溜めてきた思いや感情を解放していく過程が必要となるでしょう。

【愛着関係の傷を含むトラウマからの回復に欠かせない3つのポイント】

①『安心の基地』を構築すること

トラウマに対するケア=心の中に浮遊している思いや感情をきちんと過去のものにしていく過程

子どもがずっと心に溜めてきた思いや感情を吐き出そうとする時、それらを受け止め、子どもの心の痛みに寄り添ってあげること

愛着に対するケア=生きる力を取り戻す・生きる力を支える根幹に値する部分

子どもの満たされていない心の飢え(空虚)を満たしていくこと(共感的に子どもの気持ちを汲み取り、子どもの反応や求めに応えようとする関わりが、特に重要である)

心の回復に欠かせない『安心の基地』

斎藤暁子

先ほどの、

・共感的で応答性豊かな関わり方

・子どもが温もりを肌で感じながら安心感に包まれていくこと

『自分は親から愛されている』『大切にされている』『理解してもらえている』『必要な時に守ってくれる』というイメージが子どもの心の中に内在化されていくこと

このような感覚は、大人であり親である自分たちにとっても必要だと思います。

斎藤 裕医師斎藤 裕医師

そうですね。それによって、子どもにとっての『安心の基地』がよりよく機能します。

さらに、子どもにとっての『安心の基地』を構築していくために、親にとっての『安心の基地』が構築されていくことが必要なのです。

斎藤暁子

子どもの愛着の対象は母親であることがほとんどだとも言えるので、特に母親にとっての『安心の基地』は重要ですね。

斎藤 裕医師斎藤 裕医師

そうですね。ちなみに、「愛着」というものは、親と子の間の相互作用で育まれるものです。

親の愛情深い関わりの中から、お互いの *オキシトシンの分泌が活性化され、愛着形成が促進されることによって、親子間の愛着が確かなものとして、安定した形で結ばれるようになるのです。

このオキシトシンには、ストレスや不安を抑え、人への共感や信頼感を高める働きがあると言われています。

*オキシトシン……脳の下垂体後葉から分泌され、一般に分娩や授乳に関与するホルモンとして知られているが、別名「愛情ホルモン」「幸せホルモン」とも呼ばれている。

安定した愛着を結び直すということは、『本来備わっている力』『生きる力』を取り戻すことにつながっていくことになります。

いずれにしても、子育てを夫婦で分担するだけでなく、子どもとの愛着形成には、働いて収入を得る仕事とは比較にならない大変さや尊さがあることを認識していくことや、子どもの考えや感情が否定されない、共感的で肯定的な養育の大切さを、お互いがしっかりと共有していくことができればいいと思います。

(『安心の基地』についての詳細は、『HSCを守りたい』のp102~104をご参照ください)

 
斎藤暁子

子どもの行き渋りや不登校、不適応に対して、子どもの気持ちに寄り添った判断や選択をしようと思うのに、周りから「学校に行かせなきゃ」とか「勉強」とか、「家にこもってばかりじゃダメ」などと言われると、心が揺さぶられてしまいます。

でも、この「愛着形成」(愛着の育て直し)や傷の修復が必要な場合は特に、そのような働きかけが続くと『安心の基地』が脅かされるので、気質のことと共に、大事な修復の期間を過ごしていることを伝えられるといいかもしれません。

〈参考文献〉出版年度順

大河原美以(2006)ちゃんと泣ける子に育てよう…親には子どもの感情を育てる義務がある.河出書房新社.

岡田尊司(2011)愛着障害…子ども時代を引きずる人々.光文社.

岡田尊司(2012)発達障害と呼ばないで.幻冬舎.

岡田尊司(2012)母という病.ポプラ社.

岡田尊司(2016)愛着障害の克服…「愛着アプローチ」で、人は変われる.光文社.

ベッセル・ヴァン・デア・コーク(2016)身体はトラウマを記録する…脳・心・体のつながりと回復のための手法.紀伊國屋書店.

岡田尊司(2017)過敏で傷つきやすい人たち…HSPの真実と克服への道.幻冬舎.

岡田尊司(2018)愛着アプローチ…医学モデルを超える新しい回復法.KADOKAWA.

杉山登志郎(2018)子育てで一番大切なこと…愛着形成と発達障害.講談社.

杉山登志郎(2019)発達性トラウマ障害と複雑性PTSDの治療.誠信書房.

 

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